咽頭・喉頭の病気

ー 咽頭と喉頭の病気の知識 ー

耳鼻咽喉科の外来でよく見られるノド(咽頭と喉頭)の病気について簡単に解説しました。

解剖図C)
上気道の構造(右下図の赤線の部分で切り込んだ断面図)

カゼ(感冒)=急性上気道炎の知識

まず上気道という言葉についてご説明します。上気道は以下にご説明する部分をひとまとめにした言い方で、鼻の入口から肺の奥深くに続いている空気の通り道の上の方と言うニュアンスです。

・鼻腔:前鼻孔(鼻の穴)から、10cm位後ろにある後鼻孔(鼻の後ろの穴)までのいわゆる鼻の中。
・鼻咽腔:後鼻孔の後方にある、鼻とノドの境の部分です。
・咽頭:扁桃腺とその周りを指し、一般にノドと言われる部分で、空気の通り道であると同時に食べ物の通り道でもあります。
・喉頭:ノドの下の方に位置し、声を出すための声帯という部分を含み、気管の入口にあたります。
・気管から先は下気道と言われ肺に繋がっています。気管は喉頭から下方に続く管状の構造で肺の中に入ると二股に分かれ、この部分から先は気管支といいます。

カゼという言葉は、あまり明確な定義を持って使われていないようですが、急性上気道炎と同義語と考えられます。主に多くの種類のウイルスが原因で鼻、鼻咽腔、咽頭、喉頭などの上気道の粘膜に軽度の炎症が起こりますが、ウイルスの活動性が弱まることにより7~10日で自然に治癒に至るものを指しています。

ただし、上気道の特定の場所に限って強い炎症が認められる場合は上気道炎とは言わず、急性鼻炎、急性喉頭炎などとそれぞれの部位の名前の付いた病名が付けられます。カゼの症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻症状、咽頭痛、嚥下痛などの咽頭症状、声のかすれ、咳、痰などの喉頭・気管の症状に加え、倦怠感、発熱、頭痛、筋肉痛、下痢などの全身症状が主なものです。

なお、風邪と似た症状の病気は数多くあり、カゼから引き続き起こる病気が耳鼻咽喉科領域にはこれもまた沢山あります。また同じくウイルスによる病気ですが、インフルエンザは上気道の症状よりも全身症状が重症であり、カゼとは異なった対応が必要であるため区別して考える必要があります。

急性扁桃腺炎の知識

疲労が続いたり風邪をひいて抵抗力が落ちているときなどに、ノドの両脇にある口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)に細菌が育って発熱、嚥下痛、頭痛、リンパ節が腫れることによ頚部痛などをひき起こす病気です。

病気のメカニズム

口蓋扁桃は赤みが強く通常の状態より腫れが大きくなります。一般に嚥下痛が強いのが特徴ですが、乳幼児ではあまり嚥下痛を訴えないことも多いようです。黄白色の膿が斑状または全体に見られることもよくあります。
口蓋扁桃には耳と同じ神経がありますので嚥下時に耳が痛むこともあります。口蓋扁桃だけではなく、同じリンパ組織である鼻咽腔の咽頭扁桃や舌の奥にある舌扁桃にも強い炎症が併発している場合もあり、より重症となりますので十分な検査が必要です。重症例では高熱と食物摂取困難で入院を要します。

治 療

口蓋扁桃に付くことの多い細菌に効果的な抗生剤を選んで処方することが基本です。
出来れば抗生剤を服用する前に口蓋扁桃表面から細菌検査を行っておき、2~3日後に抗生剤の効き目を確認して不十分な場合は細菌検査の結果に従って最適な抗生剤に変更します。また必要に応じて鎮痛解熱剤や消炎剤、粘膜修復剤、含嗽剤などを処方します。

β型溶連菌(溶血性連鎖球菌)が原因である場合、特に小児の場合は腎炎など全身的な問題を惹き起こす可能性もありますので、ノドの症状が改善した後も十分な抗生剤による治療が必要になります。時にウイルスなど細菌以外の病原体によるもののこともあり、扁桃の所見や検査結果により治療方法が変わります。
十分な治療を行っても急性扁桃腺炎を反復する場合や、口蓋扁桃の周囲に膿が溜まるほどの扁桃腺炎(扁桃周囲膿瘍)の場合、扁桃腺の大きさが呼吸や嚥下に支障をきたす場合などは全身麻酔による手術が必要となります。また稀に口蓋扁桃に悪性の細胞がみられることがあり、悪性リンパ腫や白血病でも扁桃腺炎と似た症状を起こすことがありますので十分な診察が必要となります。

急性鼻咽腔炎の知識

鼻の穴から成人で10cm位奥には後鼻孔と言われる鼻の後ろの穴があり、ここから奥は下方向にノドが広がって気管や食道につながっています。この鼻とノドの境の部位は鼻咽腔(または鼻咽頭、上咽頭)といわれ、鼻の裏側であり、ノドの天井に相当する場所であるため口をあいてノドを診察するだけでは見えない部分です。

そのため鼻咽腔の病気は見逃されたり他の病気と診断されていたりすることがきわめて多いものです。この部分には扁桃腺と同じ細胞で出来ている咽頭扁桃という組織があります。小児の場合はこの咽頭扁桃が大きく発達している場合が多く、アデノイドと呼ばれます。特に3~5歳では鼻の後ろの穴をふさぐほどに大きくなっているために鼻づまりやいびきの原因になっていることがよくあります。
アデノイドについては「鼻の病気」の中に「アデノイド増殖症」として記載しましたのでご参照ください。鼻咽腔にある咽頭扁桃に炎症が起きて様々な症状が起きるものが鼻咽腔炎です。

病気のメカニズム

鼻咽腔は鼻から吸い込まれたウイルスや細菌が付着しやすい部位であるため、ウイルスによる風邪をひいた初期にも軽度の炎症が起きてヒリヒリとした痛みが出現することがよくあります。

この鼻咽腔の咽頭扁桃に細菌などの増殖が起きると特に強い炎症となり、鼻咽腔特有の様々な症状が起きることとなります。いわゆる扁桃腺炎と同じように高熱が出ることが比較的多く、痛みも多少はありますが、食物の通り道では無いので嚥下時の疼痛はあまり目立ちません。

鼻咽腔には発赤と腫れが目立ち、膿や粘液などの分泌物も付着し、これが下方に落ちて痰のからみを起こします。鼻の後ろの穴(後鼻孔)が腫れのために狭くなり鼻づまりを感じることもあります。鼻咽腔には耳と同じ神経があるので、耳が痛く感じてあたかも耳の病気があるように思えることもよくあります。
注目すべきは、鼻咽腔には左右の壁に耳管咽頭孔といわれる左右中耳に空気を送るための管の入口があるために、ここれが塞がりがちになって中耳に空気が少なくなり耳の詰まった感じが出現します。ひどい場合には中耳に空気の代わりに液体が溜まって滲出性中耳炎という極めて聞こえの悪い状態になってしまいます。
耳の痛みや聞こえが悪くなったことで耳の病気を考えて耳鼻咽喉科を受診なさる方も少なくありません。強い炎症が無くても慢性的に軽度の発赤や分泌物があり、慢性鼻咽腔炎として比較的長期間の加療が必要になる場合もあります。
また鼻咽腔には時に悪性の細胞が出現しますが、鼻咽腔の痛みがほとんどなく耳の症状や、頸部のリンパ節ばかりが目立って診断が遅れる場合が多々あります。耳鼻咽喉科での丁寧な診察が必要である代表的な病気です。

治 療

問診から判断して鼻咽腔炎が疑われる場合はできる限り、鼻から入れる耳鼻咽喉科用ファイバースコープ(内視鏡)によって発赤、腫れの程度、膿の存在の有無、炎症の範囲などを確認します。鼻咽腔の急性炎症が確実であれば、この部位に存在することの多い細菌類に効果の高い抗生剤を選択し、炎症止め、粘膜修復剤などを併用することにより数日で症状が消失することがほとんどです。

慢性の炎症では鼻の奥の方の換気をよくするために鼻内をきれいにする治療を行いながら消炎剤などの内服を比較的長期間使用することになります。
ファイバースコープで少しでも炎症以外の腫瘍などの所見が疑われた場合は、MRIなどの画像診断を行って必要な治療を選択しなければなりません。

急性喉頭炎の知識

扁桃腺より下方の喉頭という声を出すための構造に炎症が起きる病気です。声帯は喉頭に含まれます。
風邪をひいた後に喉頭に赤みや腫れが出現して喉頭炎になる場合が多いものですが、声を使いすぎて主として声帯に色々な形の腫れ、赤みなどの変化が出てきて喉頭炎になる場合もあります。肺に繋がる気管の入口に当たる構造でもあるため、声枯れや痛みの他、咳、痰などが目立ちます。
食物が通る部位ではないので喉頭炎だけの場合は嚥下痛は強くはありません。次の声帯疾患の知識を参考になさって下さい。

声帯疾患の知識

声帯はノドの奥の下のほうにある声を出すための振動板と考えることができ、喉頭という気管の上方にある構造に含まれます。位置的には首のノドボトケの奥に、後方が開いたV字を水平に置いた形の振動板として存在(下の電子スコープ写真参考)します。鼻や口から吸った空気は咽頭(いわゆるノド)から喉頭に入り、喉頭の中にあるV字型に開いた声帯の間を通り、気管から気管支そして肺に入っていきます。一方食べ物は咽頭から、喉頭の後方にある食道の入口に進み、気管の後ろに存在する食道を通過して胃へと入っていきます。

食べ物や飲み物が誤って喉頭の方に入ってしまうと強い反射がおき、むせて咳き込みます。息を吐く場合は肺から送り出された空気が気管支、気管を通り、声帯を通って咽頭から口に出て行きます。この際に声帯のV字型を閉じることによって二本の振動板を平行に並べた形にするとその隙間を息が通過する時に声帯が振動し音が出ます。この音は声帯より上の咽頭、口腔、鼻腔、副鼻腔などに響き、声になります。

病気のメカニズム

声帯が腫れたり赤くなったり出来物ができたりすると、声帯の隙間を息が通過する場合の声帯の振動がうまくいかなくなります。それによって声が枯れたり、出なくなったりするわけです。
このような声帯の変化をきたす疾患は数多くありますが、代表的なものを挙げますと声帯ポリープ、声帯結締、声帯ポリープ様変性(ポリポイド)、声帯炎、声帯腫瘍(喉頭癌を含む)などがあります。声帯腫瘍以外は声を使いすぎることで声帯に無理がかかっておきることが多いものです。声帯ポリープは多くはV字型を形成する2本の振動板の片方に球状の出来物ができ、声帯結節は両方の振動板のやや前の方の相対する部位に先端の比較的尖った出来物ができるものをいいます。声帯ポリープ様変性は多くは両側の声帯が紡錘形に腫れ、ブヨブヨに見えるものであり、重症例では呼吸困難がおきることもあります。喫煙が大いに影響するようです。

声帯炎は風邪をひいた後に起きることが多く、声帯が赤くなったり腫れたりするもので声枯れに咳を伴うことも多いものです。声帯腫瘍は良性のものもありますが、注意を要するのは悪性の腫瘍である声帯癌(喉頭癌)です。
初期には声帯に不規則な形の腫れや色の変化が見られます。中年以降の喫煙者の声枯れについては、耳鼻咽喉科の医師は声帯癌を見逃さないように常に注意を払っています。

治 療

腫瘍や珍しい声帯の病気以外の声帯疾患の治療で大事なのは声帯の安静、すなわち声をなるべく使わないようにすることです。特に声帯結節は声を使いすぎると大きくなり、使わないでいると小さくなって声枯れも治ってくる傾向が明らかです。

喫煙を控え、赤みや腫れを退かせる消炎剤他の薬を服用したりネブライザーと言われる霧状の薬液を吸入する治療が多く行われます。声帯の形の変化が目立つものについては手術以外は効果がない場合もあります。
声帯の腫瘍が疑われる場合は、詳しい検査を行った上でもっとも適当な治療を選択しなければなりません。いずれにしても声枯れは早めの診断、治療が重要です。

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