鼻の病気

ー 鼻の病気の知識 ー

耳鼻咽喉科外来でよく見られる鼻の病気に付いて簡単に説明させていただきます。解剖図B)、C)を参考になさってお読み下さい。

解剖図B)
顔面骨の中における鼻腔と副鼻腔の位置関係

副鼻腔炎(蓄膿症)の知識

副鼻腔炎(ふくびくうえん)は、鼻の周りの骨の中にある副鼻腔という空洞の中に炎症が起きて、膿や粘液の貯まる病気です。膿が蓄えられることから一般に蓄膿症(ちくのうしょう)と呼ばれています。粘り気のある鼻汁が出たり、鼻がつまったり、鼻汁が喉にまわって痰が絡んだような咳が出ることもあります。

また頭痛や集中力の低下なども起こりがちです。多くの場合、最初はウイルスによるふつうの鼻風邪がきっかけとなり、二次的に細菌の感染を起こして炎症が副鼻腔まで広がっていって病気ができあがります。

病気のメカニズム

副鼻腔は鼻の中と小さな穴でつながっている顔面骨の中の空洞であり、粘膜といわれる薄い膜が内側の壁を覆っていて、正常な状態では空気で満たされています。副鼻腔炎になるとこの粘膜が1 cm以上にも腫れて膿や粘液を多量に分泌します。

副鼻腔には空気に代わってこれらが貯まり小さな穴を通して鼻の中に流れ出てきます。鼻の中を診察すると、上の方にある副鼻腔に続く穴の周囲が腫れて見えることが多いため、副鼻腔炎を疑う根拠になりますが、レントゲン写真を撮ることによって、より確実になります。

治 療

基本は鼻の中の腫れをとって鼻汁を除去することにより、副鼻腔に続く穴の周囲をきれいにして副鼻腔内の膿などを出やすくし、また空気が中に入りやすくすることです。耳鼻科医の行う鼻に入れるスプレーや、鼻汁の吸引、ネブライザーはこれらの目的で行うものです。

副鼻腔炎の治療では手術がよく知られていますが治療法の進歩により現在では大がかりな手術が必要な患者様は非常に少なくなってきています。最も有効な治療法はマクロライド系抗生物質の少量長期投与療法です。抗生物質は細菌を殺す薬ですので、通常は一種類につき一週間前後に限って使用するものですが、この場合は細菌を殺す目的ではなく、副鼻腔の粘膜を正常に戻す目的なので特別な使い方となります。通常用いる量の半分以下の量を続ける方法であり、この量では細菌を殺す能力はありませんが副鼻腔の粘膜を正常に戻して副鼻腔炎を治していくには十分なのです。またこの量では数ヶ月間連続服用しても副作用の心配がほとんどなく、副鼻腔炎に対する有効性が極めて高いことが学会で数多く発表されております。鼻の症状がよくなっただけでは副鼻腔炎が治っているわけではなく、治療を止めてしまうとまた同じ様な症状を繰り返し、少しずつ治りにくい状態になってしまうことが多いので、レントゲン写真で異常がなくなるまで続けて治療を行うことが大切です。

アレルギー性鼻炎の知識

代表的な症状は続けてでるくしゃみ、透明で水のような鼻水、さまざまな程度の鼻づまりですが、全部が揃っているとは限りません。一年中症状の起こり得る通年性のものと、ある季節のみに限って症状のでる季節性のもの(花粉症など)があります。

他に、アレルギー性鼻炎とほとんど同じ症状であるにもかかわらずアレルギーの原因が見つからず、温度差によって鼻の粘膜が過敏に反応して症状がでてしまう血管運動性鼻炎もあります。

病気のメカニズム

抗原といわれる様々な物質が鼻の中に吸入されて鼻の粘膜においてアレルギー反応が起こることにより症状が出現します。アレルギー反応の結果生じた化学物質が鼻の粘膜に来ている知覚神経の末端を刺激してくしゃみを起こし、またこの神経が分泌線に働いて鼻水を分泌させ、粘膜中の血管にも働いてむくみを引き起こすことにより鼻の中が腫れて鼻づまりが生じます。

このアレルギー反応は誰にでも起こるものではなく、血液の中に、抗原と出会うと反応する抗体という物質を持っている人にだけ起こるのです。抗原となりうる物質は人により様々ですが、通年性ではハウスダストいわれる家の埃やダニであることが比較的多く、季節性のものでは色々な種類の植物の花粉であることが多いようです。

治 療

いわゆる体質的な疾患ですので、永久に治療を要しない状態に治すのは難しいものです。ダニとスギ花粉が抗原である場合については、抗原を薄めたものを少しずつ口の中から吸収させる舌下免疫療法があります。大半の方に効果が期待できますが3年ぐらいの長期治療が必要です。

抗アレルギー剤という内服薬は種々の特徴を持つものがでてきており、多くの患者さんに合う薬が選べるようになってきております。重症の場合でも抗アレルギー剤と、強力な抗アレルギー作用を持つステロイドという薬のスプレー(鼻の中だけで効果を発揮するものがでています)を併用するとかなり改善します。

また血液検査で原因が何であるか、程度がどのくらいかを見ることは、どの季節にどのくらいの期間治療するべきか判断するための参考になります。

通年性の場合は抗アレルギー剤の持つアレルギー予防作用を引き出すために2~3ヶ月間続けることが必要です。抗アレルギー剤は長期間服用するためのものであり、ほとんどの場合続けることは問題ありません。

また薬による治療では鼻づまりがどうしても取れない場合がありますが、この場合はレーザー光線の鼻粘膜照射が効果的です。鼻水やくしゃみについてはレーザーでは効果が不十分なこともあり、花粉症によく見られる目のかゆみには全く無効ですが、鼻づまりについては非常に高い効果が得られます。
レーザー治療 >

花粉症の知識

日本人の4人に一人が罹っていると言われるスギ花粉症は、とても苦しい思いをするにもかかわらず仕事や学校を休むわけにもいかない、実に困った病気です。前述のアレルギー性鼻炎の一つであり、花粉が原因であるために花粉が飛んでいる間だけ症状が出るものです。

くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみは代表的な症状ですが、この他に喉の痛みや違和感、咳、耳のかゆみ、発熱、頭痛、頭重感、だるさ、皮膚の発疹など、様々な症状が見られます。市販薬を買って何とか凌いでいる方も多いようですが、花粉が多く飛ぶ年は症状も強くなるため、医師の診察により症状や体質を考慮して処方された薬剤を使用した方が効果的です。

また実際多くの患者様がこれらの薬剤により快適に過ごすことができております。スギの花粉症が最も有名ですが、春にはスギの他にハンノキ、ヒノキの他カモガヤオオアワガエリなどのイネ科の植物も花粉症の原因となります。秋にはブタクサやヨモギなどの雑草類による花粉症も有名です。

病気のメカニズム

何年もの間花粉を体の中に吸い込んでいると、体質によっては、体の中にその花粉が入って来た場合にアレルギーの症状を起こしてしまう抗体という物質が少しずつ出来てしまいます。

この場合の花粉を抗原と呼びます。抗体が沢山出来てしまった人は、毎年花粉が飛ぶ季節になると、抗原である花粉を吸い込むことによって抗原と抗体がくっついてアレルギー反応を起こし、鼻や目、喉あるいは全身に様々な症状が出るのです。従って乳児は長期間スギの花粉を吸ってはいないために花粉症にかかることは多くありません。

主として10代から30代に発症することが多いものです。そして高齢者では粘膜の反応性が低下するために症状が起こりにくくなります。ただし、花粉症の発症にはアレルギー体質であることの他にさまざまな環境要因が加わっていると言われ、都会の方が圧倒的に花粉症の患者様が多いのです。また、最近では幼児や高齢者の花粉症も増えてきており環境や食生活の変化によるものと考えられております。

鼻のなかで起こるアレルギー反応についての説明はこのページのアレルギー性鼻炎の知識の項をご参照下さい。

治 療

まずは診断をつけることから始まります。典型的なスギの花粉症の場合は、毎年2月から4月にだけ上記の症状が見られるので比較的判りやすいのですが、他の鼻の病気でもくしゃみや鼻水、鼻づまりが続くことがありますので注意が必要です。またスギの花粉症かと思っていても、他の春の花粉症も加わっていたり、ほこり、ダニ、化学物質に対するアレルギーを持っている人や温度差に敏感な体質の人が、何らかの要因で症状が急に出ている場合もあります。

血液を2mlほど採ることにより、花粉症と思われる症状の原因(花粉の種類またはアレルギーの原因になっている物質)が判明し、またその患者様の体にアレルギーの原因に反応する抗体の量がどの程度あるかが6段階で出てきます。これにより1年のうちいつ、どの程度の症状が起こる可能性があるかがおおよそ判ります。ただし花粉症があるにもかかわらず、血液検査には現れない場合もあります。

また鼻水のなかの好酸球と言われる細胞の量を顕微鏡で調べることにより、その時点での鼻の中のアレルギー反応が強いか否かが判ります。これらを検査して治療を行うといつ頃までどの程度の投薬を行うのが効率的かが見えてきます。効果的な薬剤は、内服薬では各種の抗アレルギー剤です。

最近では眠気のないものや鼻づまりに効果の強いもの、一日一回服用で済むものなど、いろいろな特徴を備えたものが出てきており、患者様の症状と体質に応じて選択するとかなりの効果が得られます。

また効果をより確実にするために、鼻の中に噴霧する点鼻薬を併用することも多くあります。これもいろいろな種類がありますが、最も効果的と思われるのは、鼻の中だけで強力な抗アレルギー作用を示すステロイドホルモンの一種です。体に吸収される量は長期間の使用でも問題にならない程度であるため、安心して治療を継続できます。しかしこれらの薬剤を使用していても、花粉が非常に多く飛ぶ日には症状を抑えきれないこともあり得ます。そのような時には、内服のステロイドホルモンと抗ヒスタミン剤(アレルギー症状を一時的に抑える薬剤)との合剤を頓服として、症状の強いときに限って使用します。連日長期間内服するのでなければ、眠気以外の副作用は考えなくてよいでしょう。

花粉症の治療は花粉の飛び始める少し前から開始するとそのシーズンの症状が軽くなる傾向がありますので、花粉症と判っている方は早めの治療をお勧めします。

スギ花粉症については、スギ花粉のエキスを薄めたものを少しずつ口の中から吸収させて症状の出にくい体質にする舌下免疫療法があります。大変の方に効果がありますが、3年ぐらいの長期治療となります。

解剖図C)
上気道の構造(右下図の赤線の部分で切り込んだ断面図)

アデノイド増殖症の知識

鼻の穴から10cm(成人)位奥には後鼻孔と言われる鼻の後ろの穴があり、ここから奥は下方向にノドが広がって気管や食道につながっています。この鼻とノドの境の部位は鼻咽腔といわれ、鼻の裏側であり、ノドの最も上の部分であるため通常の診察方法では見えない部分です。

アデノイドはこの鼻咽腔の上の壁から後ろの壁にかけて存在する扁桃腺と似た組織の腫れ物です。とはいっても大人に成るまでにはアデノイドはほとんど縮んでしまって認められなくなり、多くの場合、大きさが問題になるのは子供のうちだけです。アデノイドはその部位からノドの病気ともいえますが、鼻の後ろの穴を塞いでしまうための症状が代表的ですので「鼻の病気」に含めて解説いたします。

4~5歳の頃は最もアデノイドが大きい時期であり、通常でも鼻の後ろの穴の上半分ぐらいをふさぐ大きさになっているものです。成人になるとアデノイドが腫れるということは無いのですが、子供の頃にアデノイドが存在した鼻咽腔という部位はやはり比較的細菌が付きやすく炎症が起こりやすいものです。成人の場合は鼻咽腔炎という病名で治療されますが、アデノイド同様耳鼻咽喉科でのみ診断可能な病気です。

病気のメカニズム

アデノイド増殖症とは、アデノイドが通常の大きさを越えているために、問題となる症状が出現する状態をいいます。アデノイドが大きいと、鼻の後ろの穴を塞いでしまうために慢性的な鼻づまりが起こります。鼻の中に異常がないにもかかわらず鼻づまりや口呼吸、いびきが目立つお子さんの大半はアデノイド増殖症と思われます。ひどい場合は睡眠時無呼吸が見られ、脳や全身の正常な発育に悪影響を及ぼすことがあります。

また鼻咽腔の両側には左右の耳につながる耳管と言われる管の入口があります。アデノイドが大きいと、この耳管に空気が入りにくくなり、1)で述べた浸出性中耳炎も起こりやすくなるため、聞こえの悪さからアデノイド増殖症が見つかることもあります。これに加えてアデノイドに細菌の感染による炎症(赤く腫れ、熱を持ったり分泌物が出る状態)が起きた場合は、アデノイドは大きく腫れあがり、通常はアデノイドが問題にならない大きさのお子さんでも鼻づまりやいびきが目立つようになります。

また高熱が続き、アデノイドからでる分泌物のために痰のからむ咳が続くことも多いのですが、通常の診察方法では腫れている状態が見えないので診断がつきにくいものです。

治 療

症状からアデノイド増殖症やアデノイドの細菌感染が疑われた場合はできる限り、鼻から入れる耳鼻咽喉科用ファイバースコープ(内視鏡)によって大きさや炎症の程度を確認します。スプレーによる簡単な麻酔ができますし、ファイバースコープも細いものですから、多くの場合お子さんでもほとんど苦痛はありません(恐怖感はあるようですが)。アデノイドによる症状と考えられた場合は、抗生剤、炎症止め、粘膜修復剤などを使用することにより、アデノイドの腫れをできるだけ小さくすることを試みます。

また鼻の中をきれいにする処置を行うこともある程度の効果が期待できます。炎症が全くないアデノイド増殖症の場合は、これらの薬の効き目が認められないこともあり、最終的には全身麻酔をかけての簡単な手術的治療が必要になることがあります。この場合は大学病院などに依頼することになりますが、手術を受けたお子さんのほとんどがすやすやと安眠できるようになり、ご両親によろこばれております。

鼻出血(鼻血)の知識

鼻出血は突然起こるもので、対処に困ることの多い病気です。特に子供の場合は、繰り返し出血することが多いため不安になってしまいがちですが、5分以内に止まるのであればほとんどの場合血液の病気の心配はありません。しかし繰り返しているうちに貧血になることもあり、また日常生活に支障もありますので程度に応じた治療をするべきでしょう。

また止血方法が間違っていないのに10分以上出血が続く場合や大人の鼻出血は、血液疾患を始め他の病気が隠れている可能性がありますので充分な検査が必要となります。

病気のメカニズム

鼻の奥行きは大人で10cm位あり、左右の鼻の間には鼻中隔(びちゅうかく)といわれるしきり板があります。

この前端に近い部位、すなわち鼻の穴の入口から1~2㎝の所は細い血管が集中しており、鼻出血がもっともおこりやすい部位です。鼻をかむことが多い場合や、鼻をいじる、擦るなどで鼻出血が起こるのは、この鼻中隔前端に機械的刺激が加わり、傷がつくことに拠るのです。傷はさらに刺激が加わらなければ、やがて「かさぶた」ができて自然に治っていきますが、治りかけは「かさぶた」などのために違和感が生じ、再びいじってしまうことが多いものです。従ってアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻風邪などによって、鼻が出る、つまる、むずむずするなどの症状がある場合に鼻出血が多く見られます。そして鼻をかんだりいじったりしているうちは繰り返し出やすいということになります。

以上は最もよく見られる鼻出血の原因であり、子供の場合は90パーセント以上がこれに当てはまります。しかし大人の場合は、この他に別の重大な鼻の病気や、全身疾患が隠れている可能性が多くなります。また出血部位も鼻中隔前端だけでなく、鼻の奥や副鼻腔から出血する割合が少し高くなります。この場合は鼻をいじることがなくても出血し、主として喉の方に血液が出ることもあります。特に高齢者では血管がもろくなっており、血圧が高い場合も多いので、反復して出血するだけでなく命にかかわる大出血になることもあります。

この他に顔面の打撲でも鼻や副鼻腔などの血管が切れて鼻出血が起こり、また女性の場合は生理に関係して鼻出血が見られる場合もあります。

治 療

鼻出血の原因になる部位は何といっても鼻中隔前端が多いわけですから、鼻出血が始まったらまずは人差し指と親指で小鼻の部分をつまむと効果的です。

鼻を心臓より高い位置に保った方が血の勢いは弱くなりますから、横にならず座ったまま、また血液を飲んで気持が悪くならないために下を向いて5分位鼻をつまんだままにしていると多くの場合止血します。同時に鼻の上の方(目と目の間)を冷やすのも有効とされています。

ティッシュペーパーなどを鼻に詰める場合は、入れたり出したりすると傷を刺激しますので15分以上入れたままにした方がよいようです。ただし取り出すときに血の固まりが剥がれて、再び出血が始まることがあります。繰り返し出血する場合は、耳鼻咽喉科の外来で薬液を塗布するなどの止血処置を受け、もとになるアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻の病気があればこれを治療する必要があります。

鼻中隔前端以外からの出血の場合や、出血時間の長い鼻出血の場合は、血液疾患や高血圧などの全身疾患、あるいは腫瘍などの重大な鼻の病気の可能性もありますので、耳鼻咽喉科では止血処置とともにこれらの病気についての検査を行います。また出血による貧血が疑われる場合は貧血の検査も行い、必要に応じて治療を行うことになります。

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