その他の病気

ー その他の病気の知識 ー

耳鼻咽喉科は大学病院においては頭頚部外科という呼び方もされており、首の付け根から上の脳、眼球、歯を除くあらゆる部分の疾患を扱う科なのです。頭頚部は体の中で最も多くの神経や筋肉が働いている場所であるため、耳鼻咽喉科の外来においては耳、鼻、ノドの病気だけでなく、色々な原因による顔面、頚部、頭部の症状を訴える患者様が沢山おられます。
従って「その他の病気」は数限りなくありますが、その中から「めまい」「顔面神経麻痺」「頭頚部癌」について簡単に解説させていただきます。

めまい

めまいとは自分の体や周囲が動いていないのにもかかわらず動いている感覚になってしまう状態で、吐き気を伴うこともあり非常に強い不安を伴う病気です。脳に大きな問題が起きたのではないかと思い、脳外科を受診なさる方も多いようです。命に係わる脳の病気をMRIなどの大掛かりな画像診断で否定しておくことは間違いではありませんが、めまいの原因がMRIで分かるのは0.1%をはるかに下回るのが現状です。ぐるぐる回る、ふわふわする、ふらつくなどめまいの感じ方は様々ですが、めまいの原因も様々です。めまい用の質問用紙などで詳しい問診を行い、眼振(めまい特有の目の動き)や各種のめまい診断のための検査を行って原因を突き止めた上で治療薬を選ぶことが症状改善の近道となります。

病気のメカニズム

平衡感覚は内耳(鼓膜の奥にある骨の内部の構造)と目(視力)と体(主に足裏からの体性感覚)からの3つの情報を、脳の下方にある小脳が取りまとめることにより成り立っています。めまいを起こす原因となる代表的な部位としては、まず鼓膜内側の骨の中にある内耳という場所が重要です。内耳は聞こえの神経とめまいの神経が脳から降りてきている場所です。従って内耳に血液や内リンパ液(内耳の構造の一部に満たされた液体)の循環障害などのトラブルが起きると、めまいと同時に難聴や耳鳴り、耳が詰まった感じなどを伴うことが多いのです。

内耳が原因となる代表的な疾患として昔から有名なものに「メニエル病」があります。あまりにも有名であるためにめまいを扱わない医療施設では、患者様が「めまいがある」と訴えただけで「メニエル病かもしれない」と言われることも多いようです。「メニエル病」は耳鳴りや難聴が、激しいめまいとほぼ同時に出現し、数日以内に無くなりますが、これが繰り返し起こるというものです。メニエル病に次いで有名な内耳によるめまいに「良性発作性頭位めまい」があります。めまいの患者様の中で最も多いのがこの病気です。耳鳴りや難聴は伴わず、起き上がる、横になる、寝返りを打つなど頭の位置を変えることで30秒から2分以内の回転するめまいが特徴的です。頭の回転や傾きを感じる内耳内の耳石が加齢によって剥がれ、本来の部位から移動してしまうことによって起こりますが、2週間以内にめまいが消えて行くことが多いものです。

メニエル病を始めとする内耳の障害によるめまいの場合は、どんなに症状が強くて動けなくても吐いていても直接命にかかわることはありません。これに対してめまいの原因が、脳内のめまいに関与する小脳という部位の異常である場合は時に命取りになることもあります。多くの場合は血液の循環障害によって小脳の機能障害が生じてめまいを起こしているので、小脳を含む部分の循環を改善する薬を選ぶことにより(血圧のコントロールも必要)めまいが改善します。しかし耳鼻咽喉科のめまいの検査の結果、血液が完全に途絶えてしまう脳梗塞や脳の出血、脳腫瘍などが原因で小脳に影響が出ている可能性がある場合は、MRIなどの画像診断が不可欠となりますので至急手配します。この場合は脳外科などでの治療が必要となります。このほか耳鼻咽喉科外来でよく見られるめまいには、首の筋肉の過度の緊張や首の骨の変形によって起こる「頸性めまい」、比較的強いめまいの後に3か月以上ふらつきが続く「持続性知覚性姿勢誘発めまい」、突然片方の聞こえが悪くなる「突発難聴」に伴うめまい、内耳の中のめまいの神経だけがウイルスによって障害されて起こる「前庭神経炎」、全身の平衡感覚に関係する部位の衰えが原因の「加齢性平衡障害」、脳の動脈硬化などが小脳を含む部位の循環障害を起こす「脳循環障害」などがあります。他にも低血圧、片頭痛、更年期障害、自律神経失調、薬の副作用などがめまいの原因となっている場合があります。

治 療

めまいは同じ症状に見えても原因が同じとは限りません。耳の症状が伴っている場合は聴力が落ちて時間が経つと戻らなくなることがありますので、なるべく早く耳鼻咽喉科を受診した方がよいでしょう。めまい診療を扱う耳鼻咽喉科においては内耳によるめまいの診察を行うだけでなく、多種多様のめまいの原因を追究するためにめまいの問診用紙を使用し、各種の検査を行い、これらに基づいてめまいの原因に対する治療を行います。

内耳循環改善剤、脳循環改善剤、内リンパ圧降下剤、筋緊張緩和剤、ビタミンB12、自律神経安定剤などの内服の他、抗めまい剤の頓服、内耳障害改善剤の静脈注射などを使用します。検査の結果、時には脳外科、内科、心療内科、婦人科などへの受診をお勧めすることもあります。一方でめまいの程度にかかわらず、顔のしびれや麻痺、ろれつが回らない、動けないほどの頭痛などを伴うめまいに限っては脳梗塞、脳出血などの可能性が高いので救急車で脳外科を受診するのが近道です。

顔面神経麻痺の知識

顔面神経麻痺は、麻痺が起きたほうの顔面の筋肉が動かなくなり力が入らなくなるため片方の目が閉じない、口がしっかり閉じずに水が漏れる、顔が非対称になるなどの症状が出現します。
また味覚神経も顔面神経の一部なので味もわかりにくくなります。よく混同される病気に顔面神経痛がありますが、これは顔面の痛みを感じる三叉神経の病気で、顔面神経麻痺と同じく耳鼻咽喉科で診断されますが全く異なるものです。

病気のメカニズム

顔面神経は脳の一部の脳幹から紐状に出てきて、聞こえの神経や平衡機能の神経と一緒に耳の骨の中に入ります。耳の骨の中の顔面神経の通り道を顔面神経管といい、耳の下の部位から管を出て、耳下腺(おたふくかぜのときに腫れる唾液腺のひとつ)の中に入り、耳下腺の中で5本の枝に別れてからその末端が顔面の各筋肉に分布します。

顔面神経麻痺で最も多いのは原因不明(何らかのウイルスによるという説が多い)とされる特発性顔面神経麻痺です。寒冷刺激や精神的肉体的疲労が続いた時などに突然発症します。
次に多いのが帯状疱疹ウイルスによるもので、耳の中や周りに水疱ができて痛みが出る場合が良くあります。また難聴やめまいを伴うことも多く、ハント症候群と言われております。これらの麻痺では顔面神経管の中で神経が炎症を起こして腫れあがり、神経の機能障害が起きます。

その他の麻痺としては脳腫瘍や各種脳疾患、全身的な神経疾患、白血病などの全身疾患に伴うものや、重症の中耳炎、耳下腺腫瘍、頭蓋底骨折、頭部および顔面外傷などでも顔面神経への影響が出て麻痺が起きることがあります。

治 療

特発性の麻痺と帯状疱疹ウイルスによる麻痺ではステロイド(時に大量療法)循環改善剤、神経に働くビタミン剤などを用います。顔面神経に酸素を十分供給するために高圧酸素療法や神経の周りの血管を広げる星状神経節ブロックなどが行われることもあります。
帯状疱疹ウイルスに対しては抗ウイルス剤も使用されます。
他の原因による麻痺についてはそれぞれの疾患を手術や投薬などで治療することが基本になります。

頭頚部癌(耳鼻咽喉科の悪性腫瘍)の知識

耳鼻咽喉科で扱う悪性腫瘍は総称して頭頚部癌と言います。
鼻や副鼻腔、咽頭や喉頭、舌を含む口腔、耳下腺・顎下腺・舌下腺などの唾液腺、甲状腺それに外耳・中耳などの耳にできる悪性腫瘍が主なものです。正確には悪性腫瘍は、上皮といわれる表面の細胞から出来る癌腫とそれ以外の細胞から出来る肉腫に分かれますが、ここではひとまとめに「癌」と表現させていただきます。

病気のメカニズム

首の付け根から上の頭頚部は脳・眼・歯を除いて耳鼻咽喉科の受け持ち範囲であり、ここには聴覚・嗅覚・味覚・平衡覚などの感覚器に加え、顔面の筋肉を動かすための顔面神経や顔面の知覚を受け持つ三叉神経を始めとする重要な神経が集中しています。
また脳や眼に近い位置であることからも頭頚部癌はさまざまな機能障害を伴いながら生命にかかわっていく病気と言えます。発生した癌細胞は細胞分裂をどんどん繰り返すことにより癌細胞の塊が大きくなり、広がっていきます。頭頚部癌が耳、鼻、のど、口腔などに発生するとしこりや色の変化が起こり、部位によって様々な症状や違和感を生じます。これが進行して行くと癌が正常な部分を破壊して広がっていくため上に述べたように感覚器や神経の機能障害を起こすようになります。

以下に頭頚部各部位の癌の特徴を挙げてみます。

1)鼻腔・副鼻腔癌
鼻腔や上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形洞などの副鼻腔から発生するもので、これらの空洞の中に腫瘍が育ってくることにより片方の治りにくい鼻づまりや血液混じりの鼻水などがみられるようになります。他に片方の頬の痛み・違和感や腫れ、涙が溢れる、悪臭、歯痛、嗅覚障害などもよくみられます。骨を破壊して広がっていくと眼をはじめ様々な神経を介する機能障害が現れます。特に副鼻腔癌は骨に囲まれた空洞であるため初期症状に乏しく、副鼻腔炎として治療されていることも多いものです。40歳以上で片方の副鼻腔炎が治りにくい場合も精査を必要とする場合があります。
2)咽頭癌
咽頭癌は上咽頭(鼻咽腔)に発生するものと、中・下咽頭に発生するものではかなり症状が異なります。
上咽頭癌について述べますと、上咽頭には耳につながる耳菅開口部があるため、耳の詰まった感じや難聴、耳鳴りなどが唯一の症状として現れることが多いものです。また鼻の後ろに当たる部位であるため、後鼻孔(鼻の後ろの穴)が狭くなって鼻づまりが起きたりいびきが目立ってくることもあります。食物の通り道ではないため、いわゆる「のど」の症状はほとんどなく、脳に近い部位であることから眼を動かす神経に障害が出てから発見される場合も珍しくありません。また首のリンパ節の腫れ以外に検査上異常がなくて、しばらく経過してから上咽頭に腫瘍が見えるようになる場合もあります。他の癌よりも若年者に多いことも特徴です。
中・下咽頭癌では咽頭異常感、嚥下痛、嚥下困難が主な症状ですが、下咽頭癌では近くに存在する喉頭に進展して声枯れが出て初めて発見されることもあります。
3)喉頭癌
喉頭は発声に関する構造であり、また肺に続く気管の入り口に相当する部位であることから呼吸にも大いに関係します。したがって喉頭癌の症状は声枯れ、咳、喉頭部異常感、呼吸困難、血痰などです。声帯より上の喉頭蓋に癌が発生すると異物感、飲み込むときの痛みがみられますが、声帯に癌が出来た場合はほとんど声枯れが最初の症状です。声帯の下方に癌が発生した場合は初期は無症状であり、進行してから声枯れなどの症状が出ます。
喉頭癌の発症には他の癌以上に喫煙が大きく影響すると考えられています。
4)口腔癌
口の中のあらゆる場所に癌の出来る可能性がありますが、良性のできものも数多く見られます。
患者さん自身が鏡で見ることが出来るので、心配されて受診なさることが多いのですが頻度的には良性のものが圧倒的に多い傾向があります。口腔癌の代表的なものは舌癌です。主として舌の横の部分(側縁)にしこりや白いものが出来たり、歯があたって痛い、食物がしみるなどの症状があるときは早めに調べるべきです。歯列の不正や義歯などによる舌への慢性刺激も舌癌の誘因になるようです。
舌に限らず頬の内側などの表面にも白い部分が見つかった場合は、白斑症と言われる精査や経過観察を要するものであることがあります。
5)唾液腺癌
唾液腺は大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)と小唾液腺(唇の内側など口の中の粘膜に多数存在する小さな唾液腺)に分けられます。
耳下腺は両耳の下にある唾液を作る一塊の腺組織で、「おたふく風邪」の時に腫れる所です。顎下腺は顎の下の両側に存在し、舌下腺は舌の下の部分の粘膜に覆われて両側に存在します。耳下腺癌がほとんどで、顎下腺には少なく、舌下腺には稀です。
耳下腺にはしばしば良性腫瘍がみられ、大きく腫れることもありますが、悪性の腫瘍は固着して動きが悪く周囲との境界が明瞭でない傾向があります。
唾液腺に癌が出来ても他の唾液腺が働いていますので唾液が出なくなるようなことはまずありません。耳下腺の中を顔の筋肉を動かす顔面神経が通っていますので、癌がある程度進行すると顔面神経麻痺による顔の非対称がみられ、また痛みも出てきます。
6)甲状腺癌
甲状腺は、ノドボトケの数cm下に気管の周囲を取り巻く形で存在する臓器で、代謝を高める働きをする甲状腺ホルモンを分泌しています。癌が発生しても初期にはほとんど症状がなく、ホルモンの異常も認められません。腫れ物を甲状腺に触れる場合もありますがノドの違和感の検査で偶然見つかる場合も多いものです。
癌が進行すると甲状腺の近くを通っている声帯を動かす神経(反回神経)を障害し、声が枯れたり飲み込みにくくなったりすることがあります。90%近くが発育の遅い癌ですが中には急速に進行するものもあります。
7)聴器癌
頻度の低いものですが、耳介の癌や外耳道癌は時々みられます。
紫外線暴露や慢性の炎症、湿疹、慢性の機械的、科学的刺激が誘因になっていると言われています。耳介癌は、痛みを伴う表面が凸凹の出血しやすい腫れ物としてみられることが多く、外耳道癌は初期からの痛みが特徴的であり、耳漏、出血、耳の詰まった感じなどの症状は慢性外耳道炎や慢性中耳炎との区別がつきにくいものです。
進行すると顎の関節が近いため開口障害を起こしたり顔面神経を損傷して顔面の非対称を起こすこともあります。 中耳癌はさらに稀なもので50~80%に慢性中耳炎を合併しています。「耳だれ」や難聴、耳痛など慢性中耳炎の症状とまったく変わりが無いことがほとんどであり、治りが悪く、進行していく傾向が強い場合に中耳癌を疑うことになります。
進行すると、耳の骨(側頭骨)には三半規管や聴神経、顔面神経が存在し、脳にも接しているため難聴、顔面神経麻痺(片方の顔面筋が動かなくなる)、各種の脳神経麻痺、髄膜炎症状などが現れてきます。

治 療

まず何よりも早期発見が重要です。
早く発見することにより治療の効果が出やすいものであり手術をするにしても切除範囲が狭くて済み、完全治癒の可能性が高くなります。

気になる症状がある場合は早めに耳鼻咽喉科を受診し、気になっている症状の原因が何かを調べましょう。幸い頭頚部癌は他の内臓の癌と違って、多くの例で内視鏡を含む耳鼻咽喉科の検査器具によりその場で疑いがあるかどうかを調べることが出来ます。
もちろんごく初期のものでは何度か検査を繰り返さないと判断できない場合もありますし、癌以外の病気に隠れてある程度時間が経たないと癌の所見が得られない場合もありますので、医師より通院を勧められている場合は自覚症状がなくなっても通院・経過観察を怠らないようにして下さい。頭頚部癌の治療は上に述べた1)~7)の各種の癌によって手術、抗癌剤などの化学療法、放射線療法、これらの組み合わせなど有効な治療法が異なります。
また最先端の医療機器と技術を用いて、癌の存在範囲、癌を構成する細胞の性質、転移の有無などを正確に把握し、さらに患者様の体力・基礎疾患・体質などを考慮して最善の治療法を考えるべきです。
したがって耳鼻咽喉科のクリニックで検査を受けた患者さんに頭頚部癌の疑いがある場合は、疑われる癌の部位によって精査・治療をするための適当な病院を選び、早急に紹介状をお書きすることになります。紹介を受けた病院の医師は紹介状の内容から必要な検査を選び、多くの場合病理組織検査(癌の細胞の一部を採ってその癌の性質を調べる)を行って癌を確定をした上で治療方法を選択することになります。

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